建物のことは、本当に何でも野口さんにお願いしています。

㈱いづう 代表取締役社長
佐々木勝悟様
  • 京都の文化の鯖寿司を守り抜く挑戦

  •  昔から京都の家庭で手作りされ、京都人のソウルフードである鯖寿司。これを製品として店の名物にしたのが当店です。1781年から祇園町で店を構え、『鯖姿寿司』を完成させました。
  •  じつは創業の地は錦で、もともとは魚屋です。昼食や夕食に、気軽に召し上がっていただけるお寿司も作っていました。錦の大火事で店が燃えてしまったため祇園町に移転し、お茶屋で喜んでいただけるお寿司を作ろうということで、鯖寿司を突き詰めていったのです。鯖や米など逸品の素材を全国から集め、独自の製法と職人技を極め、盛り付けには古伊万里の器や輪島塗の食籠を使うなど工夫をしています。
  •  50年ほど前、大阪万博で京都にも観光客が増えた頃、当時の店主である祖父のアイデアで、店の中でもお客様に鯖姿寿司をご提供できるようにしました。現在も観光の方は店内、地元の方はお家に持って帰られるスタイルで、多くの方に召し上がっていただいています。
  •  いづうの味の伝統を守っていますが、同じやり方では難しくなってきました。とくに近年の気候変動は素材の質に影響し、これまで鯖は若狭湾、米は滋賀県だったものを変更せざるを得なくなりました。勇気がいりましたが、「何が正しいか」を考えたうえでの決断です。
  •  鯖については、新たな挑戦も始めています。福井県の小浜で養殖を手掛けておられる方々と協力し、鯖寿司に合わせた品種改良を行い、鯖街道も復活させるというプロジェクトです。
  • 従業員との和合を大切に

  •  店や企業の経営で私が最も難しいと思うのは、従業員との関わりです。人には心、言葉があるだけに、悩みは大きいものです。
  •  私が大学を卒業し、100人ほど職人のいる大きな寿司屋での修業を終え、実家が営むいづうに入ったのは一九年ほど前になります。いわば大企業から個人商店に環境が変わったわけで、従業員への接し方に非常に戸惑いました。衝突もよく起こしましたね。修業先で学んだことが絶対だと思い込んでいたのがいけなかったのです。しかし誰でも、真っ白な自分に入ってきたものは、しっかり染み込むのではないでしょうか。当店に修業に来ている若い従業員には、実家の店に戻ってから環境の変化に苦労しないよう配慮し、教育をするようにしています。
  •  もう一つ、当時は、自分が次の店主になるということで肩に力が入り、いらぬプライドもあって無理をしていたのも災いしました。ある時、「素直になろう」と割り切れたのをきっかけに、「従業員との距離を縮めなければ」と考えるようになりました。彼らの話をよく聞き、個々を尊重できるようになったのはこの頃からです。皆で仲良く、楽しく協力する「和合」を今もいちばん大切にしています。
  •  修業を終えたばかりの私に、先代の父が「こちらに何でも頼めばいい」と紹介してくれたのが野口さんです。衛生面を重視する調理場など作業棟の新築から、昔ながらの建物の風合いを生かしている本店のメンテナンスなどまで、本当に何でもお願いしています。
  •  そして野口さんは、いつも当店に合ったものを提案してくださいます。最上級でなくてもいいと思うこともあるのですが、クオリティーにこだわると同時に「お客様に失礼のないように」との配慮もあると聞き、なるほどと感心しました。
  •  これからも時代とともに変化することは沢山あるでしょう。次代、またその次の代のために、備えになること、力になることを見通し、着手しておこうと思います。